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【ABX 2025】Peppolが拓く新たな可能性―ユーザーの声から始まる業務革新で、デジタル化の先にあるビジネス拡大へ

2025年7月24日に開催された「Amazon Business Exchange 2025」では、Amazonビジネスのパートナー企業に向けたセッションとして「ABX Partner Forum」が開かれました。本イベントのテーマとなったのは、企業が抱える請求支払業務の効率化という共通課題に対して、日本でも徐々に普及が進む、デジタルインボイスの国際標準規格であるPeppolです。本レポートでは、パートナー企業であるファーストアカウンティング株式会社(以下、ファーストアカウンティング社)のほか、Japan Peppol Authority (管理局)であるデジタル庁のセッションを交えながら、Peppolがもたらす単なる業務効率化を超えた「ビジネス価値の創造」を目指すアプローチをご紹介します。
2025年9月22日
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【登壇者】

ファーストアカウンティング株式会社
共同創業者 取締役 CTO
松田 顕 氏

デジタル庁
国民向けサービスグループ 兼 内閣官房デジタル行財政改革会議
事務局企画官
加藤 博之 氏

 

アマゾンジャパン合同会社
Amazonビジネス事業本部 事業本部長
石橋 憲人
 

アマゾンジャパン合同会社
Amazonビジネス事業本部 事業開発部
BizDev & Partnerships Manager
平野 淳
 

 

お客様第一の精神から生まれた、新たな協業への挑戦

Amazonビジネスの石橋は、冒頭でAmazonのミッション「地球上で最もお客様を大切にする企業」に言及し、その実現に向けた企業とのパートナーシップの重要性を強調しました。「Amazon単独では提供が難しい、もしくは提供するにしても長い時間がかかってしまうものがあります」と述べ、今回のAmazonビジネスのPeppol対応はファーストアカウンティング社との協業により実現した成果であることを説明しました。

経理業務の課題認識について石橋は「Amazonビジネスが関わるのは企業の購買の領域ですが、お客様側からすると業務フローで見たときに、請求や支払いなどの経理業務とも非常に深く関わっています」と分析し、「その経理業務はアナログな作業がたくさん残っており、お客様にとって大きな負担になっています」と現状を明らかにしました。

そうした中で、石橋はPeppolによるデジタルインボイスは、顧客の期待に応え得るソリューションであると位置付けました。そして「会場にお集まりの皆様と一緒にPeppolの普及を促進していくことが、中長期的にお客様のためになり、ひいてはパートナー企業の皆様と我々Amazon双方のビジネス拡大にもつながっていくと考えております」と語り、パートナー企業との協業によるWin-Winの関係構築を目指す方針を強調しました。

 

数十万社が信頼する基盤から、次なるイノベーションへ

続いて登壇したアマゾンジャパンの平野は、今回のセッションの目的を2つ示しました。1つはAmazonとファーストアカウンティング社のPeppolに関する取り組みを共有すること、もう1つは日本でのPeppol推進に向けたさらなるパートナーシップ構築です。

Amazonビジネスの現状について平野は、東証プライム市場上場企業の87%以上、国立大学の95%以上が利用していることを示しながら、AmazonのBtoB市場への浸透を強調しました。

Amazonビジネスは、BtoCのAmazonをベースとしながら、ワークフローやシステム連携、請求書支払いなどビジネス利用に必要な機能を充実させた構成となっています。

パートナーシップ戦略について平野は、購買から支払いまでのプロセス全体をカバーする多様なシステム連携を提供していると説明しました。パンチアウト連携やパンチイン連携による購買プロセス連携に加え、今回のPeppol連携にも活用されている購買データ連携機能も備えています。

既存パートナーは購買系ソリューションが中心ですが、会計系ベンダーとの連携も進んでおり、今回のPeppol対応に向けた基盤が整っています。

最後に平野は「私たちはVoice of Customer(お客様の声)を非常に重視しています。請求や支払いなど、経理処理の課題が非常に多く挙げられる中で手作業での煩雑な処理をどう解決していくかを考えたときに、デジタルインボイスが1つの有力なソリューションです」と語り、デジタルインボイスへの対応が顧客起点での取り組みであることを強調しました。

 

80分かかる作業が15分に——数字が物語る、Peoppl連携による業務改革

ファーストアカウンティング社は、2016年に創業し、会計分野に特化したAIソリューションを提供する企業です。松田氏は、Peppolサービスプロバイダーとして「現在26社の会計ソフトウェアベンダー様とご契約いただいており、国内事業者の半分程度とお付き合いさせていただいています」と説明しました。

松田氏は、企業の経理業務の負荷に関して、大手小売り企業の例を挙げて説明しました。この例では、Amazonビジネス上の取引において、ある月の明細200件の処理に80分を要しており、そこには、プリントアウト、起票作業、仕訳計上、適格請求書確認、上長確認、口座番号・金額確認といった煩雑な業務フローが含まれます。

起票作業について松田氏は、「明細がたくさんあるケースでは、明細ごとに勘定科目を指定したり、部門ごとに計上する必要があり、多い場合は1伝票当たり20分以上かかるケースがあります」とその作業負荷の実情を示しました。

さらに重要な課題として、「本当にこの請求書が正しい請求書なのか、支払先の口座番号が正しいのかの確認が非常に重要になってきています」と、セキュリティ面での確認作業増加を指摘しました。

こうした課題解決のためにファーストアカウンティング社が開発したのが、Amazonビジネス向けPeppol連携アプリです。Peppolによるデジタルインボイスを請求書受領システムや会計システムに直接取り込むことで、データダウンロードとアップロードの作業が不要になり、業務が大幅にシンプル化されるとして、その効果を説明しました。

「これまで80分かかっていた作業が15分になった事例もあります。多くの部分は省略化でき、デジタル化することによって人が目視で行っていた突合作業も自動化できます。導入については受取側のソフトウェアでPeppol対応ができていれば、特別に追加開発することなくご利用いただけます」と語ります。

 

世界が動き出した今、日本企業が直面する「待ったなし」の現実

次に登壇したデジタル庁の加藤氏もユーザー視点の重要性について語ります。平野が言及したAmazonビジネスの「Voice of Customer」に対して、デジタル庁にて注力するテーマを「Hear Voice from user」と明かします。

「大事にしているものは、お客様、すなわちユーザーの声です。ユーザーとしては今知りたいことはPeppolのテクニカルな話ではなく、『どのようなベネフィットをもたらしてくれるか』。サービスプロバイダーの皆様はこれを認識することが重要です」と指摘しました。

そして、松田氏が示した事例を引用し、加藤氏は効率化の本質について問いかけます。「80分の業務時間を15分に圧縮することが目的でなく、大事なのは圧縮された65分は何に使うのかです。単に効率化を実現して終わりではなく、ビジネス拡大につなげていくことが重要であり、利益創出という明確な目的に向かうべきです」と、加藤氏は強調しました。

「効率化のためだけに強い意志を持って、ツールを導入するという発想にはなかなかなりません。お客様は効率化という言葉に飽きています」として「具体的に何のベネフィット、利益があるのか、これを皆さんが見せていけるかが重要です」と強調しました。

加藤氏はデジタルインボイスのグローバルな動向も共有しました。EUでのe-invoiceに係る国際カンファレンスに登壇した体験を踏まえ、2024年まではビジネスの効率化を重視する発言に賛同を得られていたが、2025年からは状況が一変したとし、「EUでは2030年、2035年という明確なタイムラインが示され、EU以外の国もそれに呼応し始めている。世界的にe-invoiceの対応が不可避な状況となっています」と説明しました。

特に税務当局の動きについて、加藤氏は重要な視点を示しました。世界での動向を見ていると税務当局が関与すると効率化や生産性向上といったビジネス上のメリットではなく、税務コンプライアンスの観点から義務化が進められるため、企業は単なる「法令対応」としてe-invoiceの利用を迫られるだけになってしまうと指摘しました。

さらに、デジタルインボイス(e-invoice)の定義についても加藤氏は明確化しました。「日本ではほとんど意識されないのですが、世界ではe-invoiceの定義が定まっています。システムによる自動処理を前提とした構造化されたデータです。要すれば、構造化されたデータでない画像データなどは、e-invoiceではないことに留意する必要があります」と語ります。

 

温度感は高まっているが動けない、日本特有の課題を乗り越える道筋

最後のパネルディスカッションでは、まずPeppolの認知度向上について議論が展開されました。平野の「普及促進に向けた取り組み」という問いかけに対し、加藤氏は「Peppolの認知度向上自体が目的になってはいけません。Peppolによってどんなベネフィットをユーザーにもたらすかを意識していただくことが重要です」と再度強調しました。

松田氏も同様の見解を示し「お客様の課題が何かという観点から有効な使い方を根底に捉えて活用していくことが大事です」と述べました。

一方で平野は、「認知度を上げていくことも必要です。Amazonと皆様との間で何か一緒にやれることがあれば取り組んでいきたいです」と述べました。

続いて、Peppol導入に関する現場の温度感について、松田氏は課題を示しました。「現場で一番困られているのは明細が非常に多いケースであり、部門ごとの振り分けに膨大な時間がかかる企業でPeppolが注目されています」と述べました。一方で、Peppolでのやりとりはまだ少ない現状も指摘し、「今回のAmazonビジネスとの取り組みが使い始めるきっかけとして有効になるはず」と協業の意義を強調しました。

一方、Peppol形式のデジタルインボイスを送る側のメリットについて松田氏は、紙を印刷し郵送する物流コスト削減が脱炭素化につながることなど、環境・労働力両面での効果を挙げました。

加藤氏は「温度感は間違いなく高まっています。多くの人が今Peppolとは何か、デジタルインボイスとは何かを知ろうとしています。しかし、送り手も受け手も相手から言われなければ、まだ仕組みを変えなくて良いという風潮があるのではないか」という浸透度における現状の課題を示します。

加藤氏自身も「買い手」として「売り手」に対しPeppol での請求を依頼しているといいます。その経験を踏まえ「まずは、「買い手」(=受け手)の方が『Peppol で請求してもらえますか?』と言えるかどうか、このコミュニケーションが重要です」と話しました。

さらに加藤氏は「今回のAmazonビジネスの取り組みがよいと思うのは、従来の議論は受け手中心でしたが、今回は送り手からのアクションという点です。送り手からの積極的な働きかけが、送信・受信双方の温度感の向上と認知度拡大につながっていくでしょう」と語り、今回のPeppol対応に向けたAmazonの取り組みを高く評価しました。

Amazonビジネスでは、パートナー企業との協業を通じて、デジタルインボイスの普及、ひいてはお客様の課題解決に貢献していきたいと考えています。パートナーの皆様それぞれの課題や方向性をお聞かせいただきながら、共に推進していきます。