エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社
財務室 シェアードサービス推進部 部長
西脇 裕之 氏
デジタル庁
国民向けサービスグループ 企画官
加藤 博之 氏
セッションの前半の「知る」パートではデジタル庁の加藤 博之氏が登壇し、デジタルインボイスの基本と国内の普及状況を説明しました。
まずデジタルインボイスとは、請求の情報を売り手のシステムから買い手のシステムへ人を介することなく直接データ連携し、自動処理される仕組みを指します。そのやり取りを国際的な規格の上で成立させるのがPeppol(ペポル)で、どの会計システムを使う相手とも送受信できる標準仕様にあたります。「この中で最も重要なのは『自動処理される仕組み』という部分です。電子インボイスとの違いは、受け取った情報を人が会計システムに入力するのか、そのままデータとして自動で処理されるのか。そこにポイントがあります」と加藤氏は話します。
続いて、国内のトランザクション量の推移が公開されました。2025年半ばを境に右肩上がりで伸びており、実際に利用する企業が着実に増えていることがうかがえます。政府調達(B2G)については、デジタル庁が2025年5月から本格的な受け取りを開始しました。令和7年度の利用は、調達先事業者の15%、案件ベースで17%とのこと。「利用企業の規模は大手から中小まで幅があり、国税庁や財務省でも同様の取り組みが始まっています。令和8年度はもっと利用が進む見込みです」と加藤氏は述べました。
一方、世界では義務化が進んでいます。ベルギーではBtoB取引でのPeppol利用が義務化されており、義務化すればデータのやり取りは当然増えます。日本ではPeppolは義務ではなく、意識せずにいても事業者が困ることはありません。
「デジタルインボイスを使ってもらうためには、単純に義務化すればいいという話ではありません。世界は、義務化をせずにデジタルインボイスを定着させることの壁にぶつかりました。他方、日本は、その世界が目指した義務化をしない中でのデジタルインボイスの定着とそれによる効率化を実現しようとするユニークな立場です」(加藤氏)
続く「学ぶ」パートでは、エイチ・ツー・オー リテイリングの西脇 裕之氏が自社の実践を紹介しました。
同社は、阪急百貨店や阪神百貨店、スーパーマーケットなどを展開する関西の小売企業グループです。デジタルインボイスの導入対象となるグループ会社は40社弱にのぼり、各地の拠点がそれぞれ取引先から請求書を受け取っています。しかし、コロナ禍の前まで、経費処理は全工程が紙と押印で回されていました。紙の請求書を受け取った現場が庶務担当に依頼し、内容を確認しながら指示書を作成。部門の承認者が押印したうえでシェアードサービス会社へ送り、担当者が会計システムへ転記入力する、という流れです。
そんな中、コンサルティングファーム出身の執行役員の着任が転機となり、またコロナ禍も大きな推進力になりました。多拠点で請求書を受け取る事情から発生源入力に切り替え、承認はデジタルへ、転記はデータインポートへ。AI-OCRも導入し、請求書を読み込むだけで申請フォームが整う環境を整えました。
請求書の届き方は取引先によってさまざまです。紙やメールのPDFで届くものはAI-OCRで読み取り、電子請求書はB2Bプラットフォームで受け取ってきました。ただし後者は取引先も同じサービスを使っている必要があるため、電子で受け取れるのは全体の10%強にとどまっていました。
効果は数字に表れています。請求書1枚あたりの処理時間は27分から12.5分へと半減。グループ全体で年間18万枚を扱うため、4万時間の削減に相当します。デジタル化と並行して、プロセスそのものも組み替えました。申請の送り先を部門の責任者ではなく、先にシェアードサービスの担当者とした点です。
「経理が先に確認しているので、各社の責任者は科目や税区分を疑う必要がなくなり、取引の実態が正しいかどうかだけを見ればよくなりました。この順番の入れ替えは、紙ベースの運用ではできなかったことです」(西脇氏)
承認のあり方も変わりました。かつては決裁待ちの書類を入れる「未決ボックス」に伝票が3日も4日も滞留していましたが、現在は定例的な処理であれば移動中にスマートフォンで承認する責任者もいるといいます。
発生源入力への切り替えとデジタル承認の導入にあたっては現場の反発もありましたが、着手前に経営会議と監査等委員の承認を得ていたことに加え、グループ各社を回る説明会、専用のコールセンター、あらかじめ回答を用意したチャットボットで一つずつ対応しました。
「社内の説得は大変でしたが、3か月ほど経つと、少しずつ『やるしかない』という意識改革が起きました。今では元に戻りたいという人は一人もいません」(西脇氏)
こうしたバックオフィス全体のデジタル化を振り返り、西脇氏が最大の気づきとして挙げたのは、効率化以上にガバナンス面の効果でした。
「紙の時代は、過去の伝票を遡って確認すること自体が困難でした。デジタル化によって取引の履歴をいつでも検索できるようになり、内部統制や不正の検知といった面で、特段の手をかけずに効果が出ています」(西脇氏)
今後、同社ではAmazonビジネスの請求書をPeppolで受け取ることを起点に、紙やPDFでのやり取りを順次デジタル化していく考えです。
日本がこの先どう向き合うかが論点になりました。Peppolの利用はグローバルで着実に広がっている一方、義務化されていない日本での普及はまだ限られています。
「海外の拠点の方からは、日本の本社の温度感が低いという声を聞きます。まずは世界がどう動いているのか、ご自身の事業活動で求められていないかを、一度振り返って見ていただきたいと思います」(加藤氏)
西脇氏は、これから検討する企業にとっての第一歩として、Amazonビジネスからの請求書受領を挙げました。
「購買の流れはどの企業、どの業種にもあります。ここからPeppolの土台を作り、今後訪れる標準化された世界規格のプラットフォームに備えることが、本当に大事な一歩になると思います」(西脇氏)
最後に加藤氏が投げかけたのは、機械と人の役割分担でした。法令上適切な請求としてシステムが自動処理を終えたにもかかわらず、担当者が「私のやり方と違う」と差し戻す場面が頻繁に起きているといいます。
「Peppolも万能ではありません。皆様の知見を反映しながらシステムを育てていくことが重要になりますが、その際に紙の時代の名残りをシステムに求めるのはやめる。この割り切りがこれから重要になってきます」(加藤氏)
Amazonビジネスは、すでにPeppolデジタルインボイスの発行に対応しています。スモールスタートの選択肢として活用を検討してほしいという案内をもって、セッションが締めくくられました。
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